将棋の格言

格言は、先人が実戦で何度も確かめてきた「だいたい正しい判断」を短い言葉にしたものです。迷ったときの目安になりますが、例外も多いので、なぜそう言えるのかまで理解しておくと実戦で使えます。

格言は覚えるだけでは役に立ちません。「どの局面の話か」と「何が得になるのか」をセットで覚えるのがコツです。ここでは、実戦でよく思い出す格言を中心に、意味と注意点を短くまとめました。具体的な手の形は手筋集、玉の囲い方は囲いのページも合わせてどうぞ。

序盤・駒組み

  • 玉の守りは金銀三枚

    ぎょくのまもりはきんぎんさんまい

    玉を守るには、金と銀を合わせて3枚くっつけるのが基本、という意味です。美濃囲いや矢倉囲いなど、代表的な囲いはどれも金銀3枚で組まれています。

    残りの銀1枚(または金1枚)は攻めに使えます。逆に、守りが2枚以下のまま戦いを始めると、終盤で一気に寄せられやすくなります。

  • 玉飛接近すべからず

    ぎょくひせっきんすべからず

    玉と飛車を近くに置くな、という教えです。飛車のいる場所は戦場になりやすく、近くに玉がいると、攻め合いの中で玉まで巻き込まれます。また、王手飛車取りの筋(両取り)にもかかりやすくなります。

    居飛車なら玉を左へ、振り飛車なら飛車を左へ動かして玉を右に囲うのは、この格言に沿った駒組みです。

  • 居玉は避けよ

    いだまはさけよ

    玉を最初の5九(後手なら5一)に置いたまま戦わないように、という意味です。居玉は中央にあり、飛車・角の両方の筋に近く、王手が多くかかります。

    初心者の負け方で一番多いのが、居玉のまま攻め合いになり、王手飛車や両王手を食う形です。まず玉を2〜3手動かしてから戦いを始めましょう。

  • 飛車先の歩交換三つの得あり

    ひしゃさきのふこうかんみっつのとくあり

    居飛車で飛車の前の歩を突いて交換すると、①歩を1枚持ち駒にできる、②飛車が前に出られる、③相手の陣地をにらむ位置に飛車が通る、の三つの得があるという意味です。

    交換した後に飛車の位置が悪くなったり、相手に手得されたりすることもあるので、交換のタイミングは定跡で確認しましょう。

  • 序盤は飛車より角

    じょばんはひしゃよりかく

    序盤の駒の取り合いでは、飛車よりも角のほうが価値が高くなることがある、という意味です。角は斜めに遠くから利くため、駒組みの途中の隙を突きやすく、打ち込まれると受けにくい駒だからです。

    終盤になると、一般には飛車のほうが強く働きます。

  • 角換わりに5筋を突くな

    かくがわりにごすじをつくな

    角を交換した将棋では、5筋の歩を突くと自陣に角を打ち込まれて馬を作られる隙ができやすい、という意味です。角換わりの腰掛け銀が5筋の歩を突かずに銀を5六に置くのは、この格言に沿った形です。

  • 手のない時には端歩を突け

    てのないときにははしふをつけ

    指す手に困ったら端歩を突いておけ、という意味です。端歩は将来、玉の逃げ道や端攻めの準備として役に立つことが多く、損になりにくい手です。

    ただし、相手の端攻めのきっかけを与える場合や、穴熊の玉側の端歩は例外です。

  • 位を取ったら位の確保

    くらいをとったらくらいのかくほ

    歩を5段目まで伸ばして位を取ったら、銀などでその歩を支えよ、という意味です。支えのない位の歩は、逆に相手の攻撃目標になってしまいます。

  • 歩越し銀には歩で受けよ

    ふごしぎんにはふでうけよ

    自分の歩より前に出てきた相手の銀には、歩を突いて対抗せよ、という意味です。歩の前に出た銀は歩で追われると行き場を失いやすく、銀ばさみの形を作れることもあります。

  • 振り飛車には角交換を狙え

    ふりびしゃにはかくこうかんをねらえ

    角道を止めて戦う昔ながらの振り飛車に対しては、角を交換すると打ち込みの隙を突きやすい、という意味です。

    居飛車穴熊や角交換振り飛車が広まった現代では、当てはまらない場面も多い格言です。

駒の使い方

  • 一歩千金

    いっぷせんきん

    たった1枚の歩にも千金の価値がある、という意味です。持ち駒の歩が1枚あるかないかで、たたきの歩や底歩などの手筋が使えるかどうかが決まり、勝敗が入れ替わることがよくあります。

  • 歩のない将棋は負け将棋

    ふのないしょうぎはまけしょうぎ

    持ち駒に歩がない状態は、それだけで不利になりやすいという意味です。歩があれば攻めのきっかけを作れ、受けでも底歩や合駒に使えます。

    中盤で歩の交換を怠らない、歩切れになる攻めは慎重に、という二つの教訓として覚えておくと便利です。

  • 桂の高跳び歩の餌食

    けいのたかとびふのえじき

    桂馬を考えなしに前へ跳ねると、歩を打たれて取られやすい、という意味です。桂馬は後ろに戻れず、前に跳ぶ先が相手の駒で押さえられていると逃げ場がありません。

    図は▲6五桂と跳ねた桂に△6四歩と打たれた局面です。跳ぶ先の5三・7三は△6二の金が守っていて、桂は助かりません。

  • 桂は控えて打て

    けいはひかえてうて

    桂馬を打つときは、相手の駒に直接当てるより、1マス手前に「控えて」打つほうが良いことが多い、という意味です。次に跳ねる場所を二つ作れるので、相手が両方を受けるのが難しくなります。

    手筋集の「控えの桂」も参照してください。

  • 下段の香に力あり

    げだんのきょうにちからあり

    香車は前にしか進めないので、なるべく後ろ(自分側の下の段)から打つほうが、利きが長くなって働きが良い、という意味です。「香は下段から打て」とも言います。

    相手が間に駒を打って止めにくくなるのも利点です。

  • 銀は千鳥に使え

    ぎんはちどりにつかえ

    銀は斜めに動ける駒なので、千鳥が歩くようにジグザグに進めたり引いたりすると力を発揮する、という意味です。銀は真横と真後ろに動けないため、まっすぐ使おうとすると動きが窮屈になります。

  • 銀は不成に好手あり

    ぎんはならずにこうしゅあり

    銀は成ると金の動きになり、斜め後ろに下がれなくなります。敵陣に入っても、あえて不成のままにしておくと、斜めに引いて別の駒を狙えることがある、という意味です。

  • 金は斜めに誘え

    きんはななめにさそえ

    金は斜め後ろに下がれないので、斜め前におびき出すと元の位置に戻りにくくなる、という意味です。相手の金を囲いから斜めに釣り出すと、囲いに穴が空きます。

  • 桂先の銀定跡なり

    けいさきのぎんじょうせきなり

    相手の桂馬の頭(すぐ前のマス)に銀を置くのは、桂の攻めを封じる定跡の形だという意味です。桂の跳ぶ先を押さえつつ、銀自体は桂に取られません。

  • 遠見の角に好手あり

    とおみのかくにこうしゅあり

    盤の遠くから打つ角は、複数の場所をにらめるので好手になりやすい、という意味です。攻めと受けを兼ねたり、相手の玉と別の駒を同時に狙ったりできます。

    有名な例が、1856年の御城将棋で天野宗歩が指した▲1八角です(江戸時代の名局で並べられます)。

  • 竜は敵陣に馬は自陣に

    りゅうはてきじんにうまはじじんに

    竜(成った飛車)は敵陣で攻めに使い、馬(成った角)は自陣に引いて守りに使うと働きが良い、という意味です。竜は横に強く敵陣を荒らしやすく、馬は斜めの利きと縦横1マスの動きで玉の周りを固めます。

  • 馬の守りは金銀三枚

    うまのまもりはきんぎんさんまい

    自陣に引いた馬1枚は、金銀3枚分の守りに匹敵するほど堅い、という意味です。「玉の守りは金銀三枚」をもじった格言で、自陣の馬の価値を表しています。

  • 金は引く手に好手あり

    きんはひくてにこうしゅあり

    金は斜め後ろに下がれないので、前に出すぎた金は隙になりやすい、という意味です。金を下の段へ引きつけると陣形の隙が消え、守りが安定します。

  • 一段金に飛車捨てあり

    いちだんきんにひしゃすてあり

    自陣の金が一段目(最下段)にいれば、相手に飛車を渡しても打ち込まれる隙が少ないので、思い切って飛車を切って攻められる、という意味です。

  • 攻めは銀、受けは金

    せめはぎん、うけはきん

    斜め後ろに戻れる銀は攻めに向き、横と真後ろに利く金は守りに向く、という駒の性質を表した格言です。相手陣の金と自分の銀を交換できれば、攻める側が得をしやすくなります。

  • 歩切れの香は角以上

    ふぎれのきょうはかくいじょう

    相手の持ち駒に歩がないとき、香車は角以上の働きをする、という意味です。香の利きはふつう歩の合駒で止められますが、相手が歩切れだと止める手段が乏しくなります。

  • 飛車は十字に使え

    ひしゃはじゅうじにつかえ

    飛車は縦と横の利きを同時に生かして使え、という意味です。縦横で2枚の駒を同時に狙う「十字飛車」の両取りが生まれます。

  • 内竜は外竜にまさる

    うちりゅうはそとりゅうにまさる

    敵陣に竜を作るなら、盤の端寄り(外側)より、中央寄り・自分の玉に近い側(内側)に作るほうが、受けにも利いて価値が高い、という意味です。

  • 自陣飛車に好手あり

    じじんびしゃにこうしゅあり

    飛車は攻めの駒ですが、自陣に打って受けと攻めの両方に利かせる手が最善になる場面もある、という意味です。消極的に見えても、相手の攻めを止めながら反撃の準備ができます。

  • と金は金と同じで金以上

    ときんはきんとおなじできんいじょう

    と金は金と同じ動きをしますが、取られても相手には歩しか渡らないので、攻めに使うと金以上に効率が良い、という意味です。

中盤・攻防

  • 開戦は歩の突き捨てから

    かいせんはふのつきすてから

    戦いを始めるときは、まず歩を突き捨てて相手の陣形を乱し、持ち駒の歩を増やしてから本格的に攻めよ、という意味です。突き捨てた歩を取らせることで、相手の駒の位置をずらしたり、後で歩を打つ場所を作ったりできます。

  • 三歩あったら継ぎ歩に垂れ歩

    さんぷあったらつぎふにたれふ

    持ち駒に歩が3枚あれば、継ぎ歩と垂れ歩を組み合わせて攻めが成立しやすい、という意味です。継ぎ歩で相手の駒を吊り上げ、垂れ歩でと金を作る形が典型です。

    具体的な形は手筋集の継ぎ歩を参照してください。

  • 両取り逃げるべからず

    りょうどりにげるべからず

    両取りをかけられたとき、片方を逃げても、もう片方は取られます。それなら逃げる手で1手使うより、別の有効な手(反撃や、取られる駒の働きを最大にする手)を指したほうが得になることが多い、という意味です。

  • 浮き駒に手あり

    うきごまにてあり

    味方の駒に守られていない駒(浮き駒)は、両取りや素抜きの標的になりやすい、という意味です。相手の浮き駒を探すと好手が見つかり、自分の浮き駒は戦いの前に減らしておくのが安全です。

  • 大駒は近づけて受けよ

    おおごまはちかづけてうけよ

    相手の飛車や角に攻められたときは、金銀などで近づいて当てながら受けると、大駒を追い払いやすい、という意味です。大駒は遠くから利くと強く、近くで駒を当てられると逃げる手が必要になります。

  • 大駒は離して打て

    おおごまははなしてうて

    飛車や角を打つときは、相手の駒から少し離して打つと、取られたり追われたりしにくい、という意味です。「大駒は近づけて受けよ」と表裏の関係にあります。

  • 金底の歩岩より堅し

    きんそこのふいわよりかたし

    金の真下(自陣の最下段)に打つ歩は、横からの竜の攻めを止める非常に堅い受けだ、という意味です。歩は金に守られているので、竜で取ると金で取り返されます。

    図は△7九竜に対して▲3九歩と打った形です。竜が3九の歩を取れば▲同金で、竜と歩の交換になります。

  • 攻めは飛角銀桂

    せめはひかくぎんけい

    攻めに使う駒は飛車・角・銀・桂が中心だ、という意味です。この4種類を連携させると攻めが切れにくくなります。逆に金を攻めに使うと、守りが薄くなります。

  • 焦点の歩に好手あり

    しょうてんのふにこうしゅあり

    相手の駒が2枚以上利いている地点に歩を打つと好手になりやすい、という意味です。どの駒で取っても別の駒の利きが外れ、陣形のバランスが崩れます。くわしくは焦点の歩を参照してください。

  • 取る手に悪手なし

    とるてにあくしゅなし

    相手の駒を取る手は、たいてい悪い手にはならない、という意味です。特に自玉の近くで歩がぶつかったときは、素直に取るのが正しいことが多いものです。

    終盤の速度争いでは、駒を取るより攻めるほうが良い場面があります(「終盤は駒の損得より速度」)。

  • 遊び駒は活用せよ

    あそびごまはかつようせよ

    攻めにも守りにも働いていない駒(遊び駒)は、戦力として数えられないので、早めに働かせよ、という意味です。遊び駒の多い側は、駒の損得以上に形勢が悪いことがよくあります。

  • 5三のと金に負けなし

    ごさんのときんにまけなし

    敵陣の中央、5三(後手なら5七)にと金ができれば負けない、という意味です。中央のと金は攻めの強い足がかりになります。

    形勢判断の目安で、現代では絶対ではないとされています。

  • ヘボ将棋玉より飛車を可愛がる

    へぼしょうぎぎょくよりひしゃをかわいがる

    弱い人ほど、玉の安全よりも飛車を守ることばかり気にする、という戒めです。将棋は玉が詰めば負けなので、飛車を取らせてでも玉を守るべき場面が多くあります。

終盤・寄せ

  • 王手は追う手

    おうてはおうて

    むやみに王手をかけると、相手の玉を広い場所へ逃がしてしまうだけになる、という意味です。王手をかけるたびに持ち駒が減り、玉が安全な場所に逃げると寄せが難しくなります。

    詰まないときは、王手より「詰めろ」や「必至」をかけるほうが確実です。

  • 玉は包むように寄せよ

    ぎょくはつつむようによせよ

    玉を寄せるときは、一方向から追うのではなく、逃げ道をふさぎながら包み込むように攻めよ、という意味です。上部を押さえてから下段に落とすなど、逃げ道を先に消すのがポイントです。

  • 寄せは俗手で

    よせはぞくしゅで

    終盤の寄せでは、派手な妙手を探すより、駒を取る・王手で迫るといった分かりやすい手(俗手)のほうが確実なことが多い、という意味です。

  • 金はとどめに残せ

    きんはとどめにのこせ

    持ち駒の金は、詰ます最後の一手(頭金など)のために取っておけ、という意味です。金は前と横に強く、最後に玉の頭に打つと詰みになる形が多いためです。

  • 長い詰みより短い必至

    ながいつみよりみじかいひっし

    読み切れない長い詰みを狙うより、確実な必至(受けがない状態)をかけたほうが安全だ、という意味です。ただし、自玉が詰まされない状況であることが前提です。

  • 玉の早逃げ八手の得

    ぎょくのはやにげはってのとく

    攻められる前に玉を安全な場所へ1手早く逃がしておくと、何手分もの価値がある、という意味です。王手がかかってからの逃げより、詰めろがかかる前の早逃げのほうが効果的です。

  • 端玉には端歩

    はしぎょくにははしふ

    端に寄っている玉を攻めるには、端の歩を突いたり打ったりして攻めるのが効果的だ、という意味です。端の玉は逃げ道が少なく、端からの攻めに弱い形です。

  • 中段玉は寄せにくし

    ちゅうだんぎょくはよせにくし

    盤の中央付近(中段)にいる玉は、上下左右に逃げ道が多いので寄せにくい、という意味です。中段の玉を相手にするときは、まず上部を押さえて下段に落とすのが基本です。

  • 終盤は駒の損得より速度

    しゅうばんはこまのそんとくよりそくど

    終盤では、駒を得するよりも、相手玉に早く迫るほうが大切だ、という意味です。互いの玉が何手で詰むかを数える「速度計算」が勝負を決めます。

  • 王手するより縛りと必至

    おうてするよりしばりとひっし

    王手をかけて玉を追い回すより、王手をせずに逃げ道を縛り、必至をかけるほうが確実な場面が多い、という意味です。「王手は追う手」と同じ考え方です。

  • 玉の腹から銀を打て

    ぎょくのはらからぎんをうて

    玉の真横(腹)から銀を打つと、逃げ道をふさいで必至になる形が多い、という意味です。腹銀の問題で実際に確かめられます。

  • 鬼より怖い両王手

    おによりこわいりょうおうて

    2枚の駒で同時に王手をかける両王手は、合駒でも王手している駒を取っても防げず、玉が逃げるしかないので非常に強力だ、という意味です。両王手の問題も参照してください。

  • 桂頭の玉寄せにくし

    けいとうのぎょくよせにくし

    自分の桂の真上にいる玉は、桂が斜め前の地点を守ってくれるので寄せにくい、という意味です。受けの形を考えるときの目安になります。

参考資料

最終更新: 2026-10-17